丁寧な大騒ぎ

想いが今 クリアになっていく

耳飾り/Nくんの話

 

■耳飾り

 ピザ屋のお兄さんはびっくりしたかもしれない。配達先の受取人がしっかりお化粧をして髪を整えている女性だったら。この人は今からお出かけをしそうな格好をしているけれど、その格好でピザを食べるのかと。注文ボリュームからして複数人とシェアをするようには見えないし、部屋からは誰かほかの人の声は聞こえないし。とりあえず配達遅延を謝って、さっさと帰ることしか考えていなかったかもしれない。

 

 ピザ屋のお兄さんはびっくりなんてしていなかったかもしれない。配達先にはいろんな人がいる。必ずしも家族や恋人や友人と食べる人たちだけがピザを注文するわけではないし、食事の用意が面倒になった代わりに宅配ピザで済ませようとする人ばかりではないし、家から出たくないとズボラな格好でいる人だけが利用するとは限らないだろうから。どんな人であれ、ピザを届けることが任務。配達遅延を謝って、さっさと帰ろう……。

 

 

 マスク生活が長引いている中で気づいたことがある。耳への負担が、多すぎるのだ。マスク、眼鏡、ウォークマン(イヤホン)。ここにイヤリングを追加したらわたしの耳はわたしの心に似て打たれ弱いのですぐに疲れること間違いなし。

 帰省するたびに、部屋の主は自分だと主張するような立派な体つきで堂々と居座っているぬいぐるみ(どでかピヨちゃん。今年20歳になりました。とってもかわいい。ヒヨコも時には大人になる)に話しかけるわたしは、比喩でもなんでもなく、耳にもメンタルがあると思っている。実際に声は聞こえないが、わたしの耳はなんらかのアピールはしているわけで(要は体の不調)、メンタルがあるというのは当たらずとも遠からずと言えるだろう。

 

 

 話を戻す。わたしがイヤリングをつけるのは、誰かとお茶をするとかコンサートに行くだとか、そういうときだけであって、要はわたしにとっては非日常の小道具のひとつだった。ネジバネ式は耳を痛めるから長時間付けられないし、ノンホールピアスタイプはゆるいのか落ちやすくてハラハラするし、とにかくイヤリングと上手に付き合えていないということもあって普段使いができなかった。

 

 でもわたしが持っているイヤリングは、わたしのお気に入りのイヤリングだ。(イヤリングに限らず、わたしが持っているのだからそれはわたしのお気に入りだ、と言えるモノが増えてきて嬉しい)

 お気に入りなのに全然使えていないのは悲しい。ここで「これまで普段使いをしてこなかったからとはいえ、普段使いをしていけないものではない!」と気づき、早速イヤリングをつけてみた。とてもかわいい。今日わたしは家にいるからマスクもしないし、イヤホンもつけていない。お出かけのときより耳への負担は少なくて済む。

 

 しっかりお化粧を施し、髪を整え、好きな服を着て、耳飾りまでつけて宅配ピザを食べる。すべては自分のために。とっても良い休日にできたなと思った。

 

 

 

■Nくんの話

 Nくんという同級生がいる。彼とは一度しか同じクラスにならなかったし、普段から仲良く話をしていたほどの近しい間柄ではないが、彼の気さくな性格もあってわたしにとって話しやすいクラスメイトの一人だった。あと彼は柔らかく笑うところがとても良い。

 それ以上に彼を特徴づけていたのが学力だった。Nくんは学年トップの秀才で(常に勉学に励んでいた彼は天才ではなく努力家だと思っている)、そして日本でトップの大学に入学した。

 

 先日、かつてのクラスメイトたちとオンラインで再会した。それぞれ卒業から現在までの自己紹介をする。Nくんは日本でトップの大学に入学したあと、きちんと卒業し、詳細は個人情報となるので記載しないがわたしとは全く違う道でわたしにはできないことをしている。Nくんらしいと評せるほど「Nくんらしさ」というものは分からないが、良いなと思った。憧れや嫉妬ではなく。ひけらかさない感じもまた良い。

 

 Nくんが今も変わらずわたしにとってすごい人でいてくれることが何より嬉しかった。Nくんには敵わないなって何年経っても思えたことが嬉しかった。すごいとかさすがとか、彼はたくさん言われてきていると思うけど、やっぱりすごいしやっぱりさすがって思ってしまう。

 わたしたちが出会ったのはもう10年以上前のことで、10年あれば人は簡単に変わるし変わらないことなんてありえないけど、「変わっていても変わらないことがあるんだな」と改めて気づくことのできた素敵な時間だった。

 

 

 おまけ。

 とあることを覚えているという話をしたとき、「そうだっけ!(笑)」「あ、そうかも?(笑)」という空気の中、「そぱちゃんがそういうなら間違いないな!」とNくんに言ってもらえたことが嬉しかった。Nくんは誰のことも見下さない人だけど(なのに時々しれっと毒を吐くおもしろさがある)、対等になれた感じがして嬉しかったよ。当時Nくんに名前で呼ばれていたか覚えてなくて、そぱちゃんと呼ばれてびっくりしたのは秘密です。わたしが覚えていないだけだったら悔しいので、やっぱりびっくりしたけど嬉しかったこともあわせて秘密です。